無意味な意味

文学・芸術

これは156回目。ちょっと手抜きです。すみません。それを知ったからといって、どういう意味があるんだというようなことがあります。結構多いのです。それに気がつくと、どうもいろいろなことが気になってしかたがなくなります。これも病気なのでしょうか。人間存在そのものが、もしかしたら無意味な意味を持っているのかもしれません。

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世の中には、「無意味な意味」というものがある。けっこう知っているつもりで、実はまったく知らなかったということが多いのだ。たとえば、SOSだが、救難信号であるから、Save Our Ship(船を助けてくれ)とか、Save Our Souls(命を救ってくれ)とか、そういう言葉の略だと勝手に思い込んでいたが、どうもそうではないらしい。

要するに、モールス信号なのだ。それも一番簡単で、一番認識しやすい「トントントン・ツーツーツー・トントントン」というそれだけのことだそうだ。とにかく救難信号は、「すぐ、それと分かる」ことが必要だからだ。なるほどと思うが、拍子抜けする話でもある。

Quiz(クイズ)という言葉もその類だ。18世紀のアイルランドで、「新しい言葉をつくって、流行らせる」という賭けをした連中がいたらしい。ある男がつくったのが、このQuizという言葉。とくに深い意味はこめてないそうだ。その男は、賭けに勝つために、「Quiz」と書いた紙をあちらこちらに張り巡らした。その結果、街中でこの未知の言葉が話題となり、現在まで続いているそうだ。

もっとも、日本語などはまったく意味のない言葉の羅列でも、なんとなくお互い安心を得る表現がある。「え~、まあ、その、なにぶんどうも、ひとつ、そこのところ、なんとか、よろしくお願いします」ときたものだ。これを英語で通訳しなければならなくなったら、とても困るだろう。ほとんど何も言ってないのと同じなのだから。しかし、それで話が通じてしまうところが、恐ろしい。

かつて、大平正芳首相が国会答弁において、蛙が潰れたような声で「あ~、う~」と言い続け、その合間に、なにやら言葉が混じっている話し方をしていた。「言語明瞭、意味不明」と言われたのは竹下登首相だったが、こちらは「言語不明瞭、意味不明」。まったく何を言っているのか分からない答弁だった。だいたい、聞いているうちに眠くなってきたものだ。実は、あれは意図的だったとも言われている。「煙に巻く」というやつだ。

単に「無意味」なだけではなく、「無意味に」重複した言葉も多い。過剰すぎて、無意味な言葉だ。たとえば、「フラダンス」などは、「フラ」だけで、ダンスの意味だから、フラダンスと言ったら、「ダンスダンス」と言っているのと同じことになる。

この類いも実は多い。「クーポン券」がそうだ。「クーポン」だけで、「優待券」という意味だから、クーポン券と言ったら、「優待券券」という意味になる。

日本における地名でも、英語にしたとき、どういうわけか、同じような「無意味」な過剰さというものがある。たとえば、江戸川は、英語の標識では、「Edogawa River」となっている。どうして「Edo River」ではないのだろうか。富士山は、ちゃんと「Mt.Fuji」と英語表記になっているのに、だ。「Mt.Fujisan」とは、書かれていない。一度、役所にでも聞いたほうがいいかもしれない。うるさがられるだろうか。



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