風鈴

文学・芸術


これは205回目。お盆が終わりました。早くも去り行く夏を惜しんで、夏の風物詩の一つ、風鈴のことを書きました。中国では2000年前からあるらしい。もともとは、吉凶を占う道具だったそうです。

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風鈴は、実は昔の日本にもあった。平安貴族たちの場合は、軒につるして、魔除けの意味合いで用いていたようだ。これはちょうど扇子が、自ら扇(あおい)いで邪気を祓うという意味で用いられたのと、共通する点だ。

「風鈴」という名称は、浄土宗教祖の法然(ほうねん)上人に由来しているという。ガラス細工としての今のような大きさ、形状の風鈴は、江戸時代の中頃の享保年間( 1720~30年頃:徳川吉宗の時代)に出現したとされている。

長崎のガラス職人が、見せ物として大阪、京都、江戸などを興行しながら伝わったのだそうだ。その頃の価格は、今の価値に換算すると一つ200万~300万円ぐらいだったというから、とんでもない贅沢品ということになる。

当初は、大名や豪商の間だけで楽しまれたガラス風鈴だが、それから100年後の天保年間( 1830~43年)には、江戸でもガラスが作られるようになり、加賀屋、上総屋などの問屋が誕生する。「加賀屋」は理化学用のガラス製品を得意とし、一方の「上総屋」はビードロ風鈴、ビードロ簪(かんざし)などの嗜好品が得意だったそうだ。

このあたりから風鈴は、夏の風情を楽しむ粋な小道具へと転身をはかったようだ。風鈴売りは掛声を出さず、ただチリンチリンと鳴る風鈴の音を合図に行商をしたという。

そして、明治維新( 1868年)後は、西洋のガラス製造技術も導入されて、生産量が一気に増大。今も、夏にはなくてはならない風物詩として人気を保っている。

江戸風鈴(ガラス製)の音色には、小川のせせらぎや小鳥のさえずりなど、自然界にある癒しの音と同じ、3000Hz以上の高周波音が含まれているという。人間には、このゆらぎ(リズム)が特に心地よく感じられるようだ。

風鈴にはこのほか、南部鉄器の風鈴など鉄製のものもある。どちらのほうが心地よいかは、人それぞれだろう。澄んだ音色の心地よさでは、鉄製のほうがはるかに勝ると個人的には思うのだが、一方で、ガラス製の音色の安っぽさがある意味、庶民的な夏の風情にはどことなくしっくりくるような気もする。

しかしながら、こうした風鈴の音色というものも、もしかすると民族、人種によってはまったく受け止め方が違うかもしれない。ヨーロッパには行ったことがないのでなんとも言えないが、風鈴という習俗はあまりなさそうだ。虫の声を雑音と感じてしまうように(当コラム第1回「外国人と日本人の違い」参照)、風鈴を鬱陶しいと思う人も、世界には案外多いかもしれない。お隣りさんが近い住宅やマンション、アパートなどでも、ちょっと気をつけたほうがよさそうだ。



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