大陸との付き合いかた(後編)~21世紀の赤狩り。

政治・経済, 歴史・戦史

これは359回目。

今、日本と日本人は、オブラートに包んだ言い方をすれば、「品格」が問われている。もっと突っ込んで言えば、「義」が問われているのだ。筋を通せるかどうか、究極の選択を迫られているといってい。

今、アメリカと中国の覇権を巡る対立は激化している。トランプ大統領が11月の再選に向けて、このカードを切りまくり、さらにエスカレートさせていこうとする意思を明白にしている。

「前編」で紹介した2018年ペンス副大統領の「邪悪な中国共産党はアメリカの国益にとって害毒である」というこの罵倒だが、アメリカの高官がこの種の罵倒を口にするとき、それは「敵性外国」として認定する路線にほかならない。オサマ・ビン・ラディンしかり、サダム・フセインしかり、カダフィ然りである。

以来、貿易紛争という助走を経て、今回の中共ウイルス拡散によるパンデミックを契機に、アメリカは中共潰しの火蓋を切ったようだ。

中国共産党員の入国禁止を検討し始め、在米の中国領事館の閉鎖を始め(中共も黙ってはいない。翌日、成都の米領事館閉鎖を命令するという応酬となっている)、ウイグル人権法、香港自治法、国家権限法と、連邦議会も党派を越えて中国に対する制裁法案を次々に「満場一致」で可決している。

ほんとうに戦争が始まったようだ。

もちろん、トランプ政権としては世論調査で10ポイントもリードするバイデン民主党候補を打倒するために、このカードをことさら切りまくる可能性はある。

通常米国の大統領選挙において、外交問題はほとんど争点にならない。呑気なアメリカ国民にとっては海外のことなどどうでもよいからだ。

しかし今回ばかりは違う。中国の「ヒト→ヒト感染」の事実を2ヶ月も隠蔽し、あろうことか武漢病毒研究所に乗り込み、人民解放軍がこれを接収。重要なコロナ・ウイルスに関するすべての資料、データ、サンプルをことごとく焼却処分してしまったのだ。

国家的隠蔽工作が行われたことはあきらかで、これによってまったく中共ウイルスの発生と経路をたどることができなくなってしまった。

アメリカはこれを犯罪だと見なしている。自国民14万人が中共ウイルスによって「殺害」されたのだと、ここから声高にシュプレヒコールを上げることだろう。この「悪しき敵と、戦わないつもりか?」と。

先述のウイグル人権法だが、さる7月20日の英国BBC放送で、上空から情報機関が撮影したウイグルにおける強制キャンプ移送の実体が放映された一件が耳目を集めている。

番組は、在ロンドンの中国大使をゲストに招き、「何が起こっているのか」と説明を求めたが、大使は例によって、「西側情報機関はこういうでっちあげばかりする」と否定。

しかし、現実にウイグル人女性が大量に、強制的な不妊手術を施されており、ウイグル自治区の公式人口データでも、2015年から18年までの間に、人口が84%減少しているという、驚愕すべき事実も明らかにされた。

大使は、すべて「でっちあげだ」というが、自分たちの地方政府の公式データである。否定のしようがなかろう。

ウイグル人は100万人とも言われる民族浄化という恐ろしい目に遭っている。彼らは、強制キャンプに押し込められ、比較的従順な者は中国全土の企業に送られ、強制労働をしている。反抗的なものの運命は、決まっている。拷問の末、殺害され、臓器移植の献体に供されている。

香港で昨年逮捕された9000人の民主派運動家のうち、4000人は中共に送られたまま未だに行方不明である。同じ運命であることは言を待たない。

中共は、労働賃金が上昇して海外勢との競争力が落ちてきていることから、こうした「奴隷」を中国企業に移送し、受け入れた企業には報奨金を与えているという実体も明らかになってきた。

そこで作られた製品を、わたしたちは喜んで購入しているという現実を、今、アメリカが暴露し始めている。誰もが知っている有名ブランドばかりだ。

メディアの言うことだから、どこまで裏が取れているか不明である。また、西側の企業が中国の生産施設では、直接ウイグル強制労働者を雇っているということは、皆無だろう。

しかし、その下請け、さらに孫請けになってくると、誰も事実を知らないというのが普通だろう。

もし、アメリカがそれをつきとめ、メディアに公開していったとき、中国に生産拠点を持った企業は、撤退せざるをえない。国家的犯罪に加担しているのと同じだとみなされ、ESG投資信託は一斉に資金を引き上げることにもなりかねないからだ。

ESG投資信託というのは、「社会貢献をする優良企業」に資金投下し、そうではない邪悪な企業からは資金を引き上げるという、「流行」だ。

こんな綺麗事の運動が、なぜ、ここ数年にわかに大きな潮流になってきたのか、わたしは正直不可解に思っていた。が、どうやらこれを「仕掛けた」人たちは、中共潰し(あるいはロシア・イラン潰しなど、独裁国家潰し)に格好の「大義名分」だと考えたに違いない。

そうだとすると、なかなか周到な手段である。足手まといのリベラルは、綺麗事が大好きだから、簡単にこの運動に乗せられる。一見、企業は責め立てられるように思えるが、最終ゴールは企業レベルの話ではない。中共という邪悪な存在には一切資金を出すな、というゴールが用意されていたとすれば、これは恐るべき国際的金融謀略だったと言わざるを得ないかもしれない。

すでにアメリカのメディアは、こうした「おぞましい人権蹂躙に、事実上加担している疑い」のある企業名、83社を公開している。そのうち、日本企業(それも名だたるところが多い)11社も含まれている。(ここでは実名は挙げない。具体的には【一粒萬倍勉強会】https://www.ichiryu-manbai.com/ を参照)

安倍政権がことさら、中国から生産拠点を移し、サプライチェーンを拡散せよと財界に指導しているのはこのことがあるためだろう。これに対して「なかなか難しい」と、呑気なことを言っている経団連こそ、国益を損なう害毒のような存在に成り果てていやしまいか。アメリカという、世界最大の組織暴力団の恐ろしさを、彼らは甘くみているのである。

アメリカの狙いは、中国から経済・金融という手段を完全に奪い、日干しにすることにほかならない。香港自治法成立がそうである。

中共が強行した「国家安全法」によって中英協定を破り、中共は香港を併呑してしまった。外貨準備高300兆円と豪語していた中共だが、実体はおそらく20-30兆円しかないはずだ。香港併呑で、香港の外貨準備40兆円が喉から手が出るほどほしいのだ。

アメリカは、だから香港に与えてきた最恵国待遇を剥奪するどころか、「国家安全法」成立に加担したすべての企業(中国企業か外国企業かは問わない)と人間に制裁できるように香港自治法を成立させたのだ。これらのもののドル決済を禁じたのである。まさに日干しだ。

もっぱら中共は、ドルという基軸通貨と固定の香港ドルで、資金調達をしてきたわけだが、この道をアメリカはシャットダウンしたわけである。

ポンペオ国務長官は、7月13日・15日の南シナ海声明で、「中共と領土領海紛争をしているあらゆる国や地域をアメリカは支援する」と言い切った。「たとえば・・・」といって、「中印国境の山岳地帯、南シナ海、そして尖閣諸島・・・」と、初めてアメリカが、公式に尖閣諸島を軍事的防衛対象とするとみなしたわけだ。

トランプ大統領が2月にインドを訪問した際に、クリケット・スタジアムに押し寄せたインド国民10万人の大歓呼に迎えられたのは記憶に新しい。トランプ政権は、その期待に答えようとしている。

トランプ政権は、アメリカ国民をして、中共の国家的犯罪を許すなというキャンペーンを展開するだろう。その手始めが、領事館閉鎖であり、中国共産党員の入国禁止の検討だ。

14万人の自国民を殺害した中共を許すな、香港市民や中国国民を中共のファシズムから救え、という運動は、リベラルであろうとだれであろうと、まともに反論できはしないからである。

なにより、バイデン民主党候補は、親中派であり、息子・家族もろとも、中国から大枚の資金支援を受けてきた過去がある。アキレス腱と言っていい。

オバマ前政権時代に、オバマ大統領は習近平主席の「南シナ海の諸島に、軍事施設は決してつくらない」という甘言に騙された。というより、黙認した。結果、習近平主席は軍事化を進め、艦隊演習すら可能になっている。

このオバマ政権の黙認当時、副大統領はバイデン氏であった。当時、エアフォース2に乗って中国訪問をしたとき、息子も連れて行った。そして、彼らが帰国して一週間後、息子の投資ファンドには1500億円が中共の銀行から振り込まれた。こういう親中派のバイデン候補を、この状況下でアメリカ国民が選ぶと思うか。ありえないのである。

8年の在任中、なにも成果がなかったオバマ政権と、明確に株価と景気を押上げ、雇用を大いに拡大し、完全雇用状態にまで盛り上げたトランプ政権では、有権者の選択は間違っていなかったことを示している。

ましてや、今、アメリカ国民をウイルスによって塗炭の苦しみに陥れている元凶・中共と癒着しているバイデン候補と、中共を潰す意思を見せているトランプ候補と、天秤にかけたとき、答えは明らかだ。

それだけに、米中対立はエスカレートすることはあっても、緩和する可能性はゼロである。

おそらく、長期的にみても、アメリカの本音は「犯罪国家」である中共を、国連の常任理事国から引きずり下ろす算段までしていることだろう。戦後秩序のパラダイム・シフトである。

さあ、この状況下で、日本はまだ紳士づらしたまま、かつての幣原外交のように、綺麗事の「協調外交」に終始するつもりだろうか。

国益の観点(日本国民の生命と財産を守る)からも、国際的な正義の観点からも、中共に対して融和的な姿勢を取り続けるのだろうか。香港や、ウイグルや、漢民族の民主的自由主義的な人々が、どれだけファシズムによって弾圧されているか、これほど証拠が揃ってきているのにもかかわらず、それでも日本は習近平主席を唯唯諾諾と国賓としてまだ迎えるつもりだろうか。大陸で日々刻々と繰り返されている非道に、日本は見て見ぬ振りをし続けるのだろうか。

もし、そうなら、こんな国は、滅んでしまえばよいのだろう。

かつて、作家の深田祐介が伊藤忠役員、駐中国特命全権大使、日中友好協会会長など歴任した丹羽宇一郎氏との対談で、「日本は中国の属国になったほうが、幸福で安全なのです。」と言い切って、深田が腰を抜かしたことがある。

これが、親中派の正体である。企業や個人の私的な幸福と安全のためなら、国益などどうでもよい、ということだ。究極、国益が損なわれたとき、企業や個人の私的な幸福や安全すらおぼつかないという、基本的なことさえ理解できていない人たちだ。

そんな呑気な日本を置き去りにしたまま、西側諸国は中共糾弾を加速させている。

アメリカだけではない。英国も強烈に中共を敵視する政策を摂り始めた。豪州もそうである。あのひねくれ者のフランスでさえ、ファーウェイ(華為)を自国の5Gから締め出す決断をした。それだけ、中共の知財侵害(要するにスパイ活動)と、非合法行為が目に余るということだ。

ドイツは、まだ親中的である。あの国は戦前もそうだった。ナチスは、蒋介石と手を結んでいたのだ。お似合いのカップルだったといってい。そんなドイツと同盟を結んでいた日本は、いい面の皮だった。

今、また同じ世界のパワーバランスになってきているような気がする。今度は間違えてはならない。いわんや、二階幹事長の音頭で仕組まれた「習近平主席訪日」など、延期ではなく、中止でなければおかしい。

日本と日本人に、「義」があるのか。まともに、自分自身を守ろうとする意思があるのか。つまり国家として、そもそも存立していると言えるのか。国益と、個人や企業の利益と、究極どちらが優先されなければならないのか。戦後、一度も日本人がまじめに思いつめたことのない、しかし一番基本的な大前提を巡って、今、きわめて具体的な選択を迫られている。

あなたなら、どうする?