神々の流竄(るざん)~その神とは?

宗教・哲学

これは292回。昨夜は今年即位された天皇陛下が大嘗祭という、最も重要な祭祀をされました。大嘗祭(だいじょうさい)とは何でしょう? 儀式の進行や次第がどんなに大変なものなのか、テレビは盛んに報道していましたが、そんなことよりも、わたしたちが知りたいのは、意味です。どの神に対する祭祀なのかということでしょう。表向きの説明ではなく、歴史の真実に迫る多くの民間学者たちの説をまとめてみました。その神とは・・・

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天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊。
(あまてるくにてるひこあめのほあかりくしたま・にぎはやひのみこと)

この神の名を知っている人は、かなり古代の日本宗教史・歴史に詳しい人だろう。ふつう知らない。
誰でも知っているのは、天照大神(あまてらすおおみかみ)だ。

おなじ「天照」の字を冠していても、まったくの別人である。
天照国照となると、天照より格段も上位の名であることは、一目瞭然。
天照大神をもしのぐということは、どういう神なのか。
この神の正体は誰なのか?

「人」と書いたが、神話はつくり話ではない。もちろん事実からはかなりかけ離れた部分が多いだろう。しかし、なにがしかの事実があり、それを物語り(神話)に仮託したと考えるのが自然だ。
荒唐無稽の作り話という神話は、無いのである。

古事記や日本書記の頃から、大和朝廷の始祖の歴史が改竄(かいざん)されたと民間の学者たちは言う。日本は万世一系というが、実は歴史学的には3回、王朝(血統)が変わっていると考えられている。
いずれも、「神」という名のついた天皇のときに、王朝交代が行われているというのだ。

「神武天皇」、「崇神天皇」、「応神天皇」の三人だ。

ハツクニシラススメラミコトという名を死後、贈られている。はじめてこの国を統治した天皇という意味だ。初めての天皇が3人いるということは、おかしなことではないか。
つまり、王朝が交代したのだと、学者たちは推測する。

初代天皇とされる「神武天皇」だが、それではその前に天皇はいなかったのか。
当時、天皇という名は無かったであろうから、大王とここでは呼んでも良いだろう。

いたのだ。それが、天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊だとされる。
いわゆる天照大神(伊勢神宮の主神)は、神武天皇にはじまる万世一系の天皇家の先祖だということになっているが、それより以前に大王の血統が存在していたということだ。

饒速日(にぎはやひ)は、原大和朝廷の始祖、スサノオの第五子である。
幼名を大歳(おおとし)と呼んだ。

日本書記に書かれていたことから、一般に古くから言われているのは、大国主命(おおくにぬし)=大物主(おおものぬし)という説がある。

突然出て来たこの大物主は、日本最古の神社である奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)の主神の名だ。日本全国で、社名に「大神」とつくのは、ここ一社だけである。最古で、大神で、唯一ということになると、どれほど偉大な神(大王)であったか想像がつくというものだ。

大国主命と大物主はまったくの「別人」である。
日本書記は、この点を改竄し、同一人物かのように記録に遺した。

しかし、それより前に口述筆記された古事記では、まったく別のことが書かれている。

「大国主命が国家建設の完成ができず、困っていると、大物主がやってきた。
そして、自分を御諸山(三輪山・みわやま)に祀れば、国が完成すると言った。
そこで、大国主命がそうすると、国が治まった」

古事記はこの記述の直後に、「・・・彼(大物主のこと)、その大年神は・・・」と続く。

つまり、大物主=大年神ということになる。
大年神は、異字では大歳神と書き、正月の神様の名でもある。

讃岐のこんぴらさん(金毘羅宮、金毘羅大神)は、何という名で祀られているかといえば、大物主である。
つまり、こんぴらさんも、同じ神である。

このように、神武天皇以降、何度か歴史が改竄されていった過程で、同じこの偉大な大王の名は、ばらばらに名前が変わってしまっているのだ。

それは、持統天皇の時、天照大神を伊勢に祀って、彼女こそ日本の神(天皇)の始祖である、とするために、それ以前の神々(大王たち)の歴史・家系図など、すべてを没収し、焼却したのである。

民人たちは、それまで崇敬していた大王(神)の代わりに、天照大神を与えられた。
しかし、信仰とはそう簡単に入れ替えることができない。
そのため、民人は、ひそかに、隠れて、以前の大王(神)を祀ったのである。
とがめられてしまうので、さまざまな異名で彼の名を呼んだ。

それが、こんぴらであり、大物主であり、大歳なのだ。
それこそが、本名を、冒頭で述べた天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊だと言う。

京都、天橋立に籠(この)神社がある。
天照大神が、その鎮座する場所を求めて、50年間にわたり、各地をそれこそ「たらい回し」された。なかなかどこでも新しい神を崇敬することに、抵抗されたためだ。
最終的に伊勢に落ち着いた。

このとき、何度も場所を移動しているわけだが、一番最初に鎮座したのが、この籠神社である。
だから、いまでも籠神社には、一角に天照大神が祀られており、元伊勢第一号と呼ばれている。

しかし、この籠神社には、れっきとした主祭神がいる。
籠神社の由緒には、こうある。

「主祭神 彦火明命(ひこほあかりのみこと)。別名を天照国照彦火明命(あまてるくにてるひこほあかりのみこと)ともいい・・・。」

だんだんこの謎の神の正体がわかってきただろうか。

金比羅宮の由緒書きにはこうある。

「主祭神・大物主神は・・・国造りの神様として象頭山の金刀比羅宮に祀られていますが、大己貴神、八千矛神、大国魂神、顕国魂神など、多数の名前を持たれた神様です。・・・」

どれも同一人物の名だということになる。

さらに、先述の籠神社の社伝によれば、

「亦はニギハヤヒのミコト、果ては下鴨神社の祭神である加茂別雷命と異名同神だとも伝えられている …」

こうなってくると、以下の神名はすべて、同一人物ということになってくる。

天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊
大歳
大年神
金毘羅大神
大物主
加茂別雷
大国魂神

通称、饒速日(にぎはやひ)である。

スサノオの第五子にして、原大和朝廷の最初の大王である。

熊野権現(熊野本宮大社)の始祖は饒速日である。祀られている主祭神は、父スサノオだ。後、饒速日も祀られるようになったが、その名は事解分男となっている。

全国にある龍神だが、ほぼ饒速日(にぎはやひ)と同体である。九頭竜神社は、もともと饒速日である。スサノオの象徴数字は八(八幡、八重垣、八雲、八俣、八坂、八王子・・・)、饒速日(にぎはやひ)のそれは九なのである。

スサノオが出雲に発し、九州を制し、その後をうけた「にぎはやひ」は瀬戸内を東進し、兵庫に軍事拠点を設け(だから神戸という名ができた)、そこから奈良へと侵攻。そこに原大和朝廷をつくりあげたのである。

日本(ひのもと)という国名をつけたのは、この「にぎはやひ」である。

彼はその後、歴史からその名を消された。抹消されたのである。が、異名を以て連綿と信仰は受け継がれている。

日本ではこの太古の時代の原色を数々とどめているのか九州だ。そこには多くの伊勢天照御祖(みおや)神社がある。

その名からは、だれしも主祭神が伊勢の天照大神と思う。しかし、そうではない。すべて天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊である。

余談だが、それでは伊勢に祀られている天照大神は、偽物なのかというと、そうではない。饒速日(にぎはやひ)や、その父スサノオ(須佐之男命)と非常に深い関係がある。が、一般的に知られているようなスサノオの姉ではない。この点は、あまりにもタブーに近いので、さすがのわたしもここでは大っぴらには書けないので、割愛。

さて、話を本題に戻す。天皇家は、毎年11月14日深更に「大嘗祭」を執り行う。
五穀豊穣を祈るのである。

わたしの理解が間違っていなければ、大嘗祭は即位のときである。以降、このしきたりは、11月22-23日に「新嘗祭(にいなめさい)」としてとり行う。
その22日は、前夜祭のようなものだ。

一説には、この22日が饒速日(にぎはやひ)の命日であると伝えられてきた。
饒速日を主祭神としている、奈良で最も古い、大神(おおみわ)神社、大和神社(主祭神は大國魂・おおくにたま=にぎはやひ)、と並び称せられる石上(いそのかみ)神宮=布留(ふる)神社では、このとき、鎮魂(たましずめ)の祭りが行われるからだ。石上神宮には、「玉の緒」のお守りが授与品として用意されている。

布留(ふる)とは、スサノオ一族(モンゴル系)の饒速日(にぎはやひ)のモンゴル名・フルであると言われる。父親のスサノオはフトゥシ、祖父はフトゥである。

つまり、歴代天皇家は、国家の五穀豊穣を祈念するにあたり、大嘗祭(新嘗祭)に、饒速日(にぎはやひ)の呪詛を鎮めるため、前夜祭を執り行っているのではないか、と伝えられてきた。

饒速日(にぎはやひ)こそは、日本最古の五穀豊穣の神なのである。日本列島初の統一王朝をつくりあげた大王なのである。

ちなみに、いつぞやこのNOTEでも書いたと思うが、宮崎駿氏の「千と千尋の物語」に登場する、白面の少年ハクをご存知だろうか。

あのハクは、湯婆に呪いを掛けられていた。自分の名を忘れるという呪いを。
アニメの最終段階で、ハクはそれを思い出す。
それによって、呪いが解けたのだ。

その名とは、「ニギハヤミ」であった。
これが偶然とはとても思えない。

もっと言おうか。

名前を消される呪いをかけられていた間、かれはハクと名乗った。なぜ、ハクという仮の名をつけられていたのだろうか。

もしかすると、ハは八(はち=スサノオの象徴数字)、クは九(饒速日・にぎはやひの象徴数字)を意味しているのではないかとすらかんぐることもできよう。スサノオ・ニギハヤヒ父子ともに、歴史上から抹消された異議申し立てがこめられているのではないか。

宮崎氏は、名前を消され、1000年にわたって流竄(るざん)を強いられた、天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊(にぎはやひ)というこれ以上ないほどの崇高な諱(いみな)を贈られた原大和朝廷の大王を、アニメを通じてこの世に蘇生させたのではないか、とそんな気がする。



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