おくればせながら・・・

雑話

これは349回目。新年明けましておめでとうございます。ついつい、そうしたテーマで書くことを忘れていました。

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遅ればせながら、明けましておめでとうございます。今年は、積年の悲願達成がかないますように、お祈りいたします。年明け早々とはいえ、やや時宜を逸した感がありますが、とりあえず、おせち料理の話から。

このおせち、とてもではないが、個人的にはおいしいとは思えない。基本的には、冷蔵庫のない時代から培われた文化だけに、やや保存食的な傾向が強いのだとは思うが、それだけに、語呂合わせによる願掛けの意味合いが強い。美味い、まずいは、二の次なのだ。

海外には、こういったおせちに相当するようなものがあるのだろうか。そもそも、ご存知のように、海外のお正月事情というものは、ヨーロッパやアメリカとキリスト教の地域ではクリスマスが大事とされているので、お正月はそれほどほど盛り上がらない。

それでも、イタリアの豚足のソーセージ「ザンポーネ」、オランダの揚げドーナツ「オリボルン」、フランスの「ガレット・デ・ロワ」というケーキのように、お正月に食べられるものはあるようだ。

たとえば、イタリアの年越しそば的存在なのが、豚足にさまざまな部位を詰めるソーセージ「ザンポーネ」。見た目からして迫力があるが、味わいもかんり濃厚なので、意外に量はそれほど食べられない。ザンポーネには「レンキエッテ」(レンズ豆)の煮込みを添えるのが定番らしいが、レンズ豆は形がお金に似ているので、大晦日に食べるとお金持ちになれるといわれているようだ。

オランダの年越しにかかせないのが揚げドーナツ「オリボルン」。ころっとした丸い形がドーナツだ。オランダでは、大晦日にはオリボルンをつまみながら年を越すのが恒例。自宅で作る人もいますが、街なかで買う人も多く、大晦日には長い列ができる屋台も。プレーンのほかにレーズン入りのものもあり、粉砂糖をかけて食べます。もっとも、ザンポーネも、オリボルンも、いずれも年越し用なので、おせち的なものではない。

さて、フランスだが、「ガレット・デ・ロワ」は、「王様のケーキ」という意味になる。そもそもキリスト教の暦で1月6日が「エピファニー」というお祭りらしく、クリスマスから12日目のこの日は東方から3人の王様が、星に導かれてフランスにたどり着きキリストに贈り物を贈って誕生を祝った日とされている。カトリック教国では、6日にクリスマスプレゼントを子供たちがもらうという習慣があるようだから、基本的には、お正月と言う意味合いではなく、あくまでクリスマスの延長線上のものであり、その最後を飾る風習とでもなるのだろうか。

アメリカはどうだろうか。アメリカでは、地域・家庭によって、お正月に食べるものに違いがあるようだ。南部では、ホッピン・ジョンという、ブラックアイドピーという豆、そしてごはんが入った料理を食べる。家庭によってスープのようだったり、汁気がまったくなかったり、と様々なようだ。

ブラックアイドピーとは、大豆のようなクリーム色のお豆に、黒い目がついているもので、コインの象徴と考えられて、お金を呼ぶ縁起のいい食べものと考えられているようだ。また、豚肉も幸運を呼ぶ縁起のよいものと考えられて、ホッピン・ジョンに入れられたり、またただ単にローストポークとして食べられたりするそうだ。キャベツも縁起がよいとされ、ポークと一緒にサワークラウトという、すっぱい千切りキャベツのお漬物みたいなものや、またコーンブレッドも食べられる。

しかし、特にお正月料理を食べないといった家庭も少なくないようで、特にお正月の味はないというアメリカ人の声もよく聞く。お母さんがお正月にマッシュポテトを作り、その中に小さなおもちゃのコインなどを入れ、自分が取ったマッシュポテトにコインが入ってたら、その年はお金に恵まれる、というお正月のゲームをするといったような「仕掛け」は家庭によってはあるらしい。いずれにせよ、多民族国家のアメリカである。全国的な定番というものは、さすがに無いに等しい。

ところで、お正月といっても、アジアでは旧暦に基づいた旧正月の方が祝われる(ちょうどいまがまさにそれだ)。例えば、中国では爆竹で賑わい、獅子舞が踊る。そして、肉団子の料理や腸詰、肉の干物のほか、餃子、餅と、日本のおせち料理のような、縁起のよい食べものを早い時期から仕込む習慣がある。

とくに、日本人に馴染みが深いものでは、なんといっても餃子であろうか。通常大陸では、ふだん焼き餃子を食べるという習慣が昔から無かった。わたしが常駐に近い状態で大陸をうろついていた80年代前半の話だが、焼き餃子を食べたくとも、ほとんどその機会はなかった。

せいぜい、お正月に、各家庭のお母さんが、のんびりできるように、事前に大量の餃子をつくって、お正月にそれをぱくついていたようだ。旧満洲でのことだが、つくりだめした餃子を土間や、外に置いておくだけで、天然の冷凍庫に保存してあるようなものだから、必要な分だけ取り出して、湯がき、あるいは(たまには)焼き餃子にとしていたようだ。

しかも、数少ないわたしの経験からは、餃子に「にんにく」が入ることは、100%無かった。「にんにく」は生で、別の皿にでも盛られていた。生「にんにく」かじりながら、餃子をひたする食べるのだ。

うまいというか、強烈というか、胃が踊るというか、この判断は人によってかなり微妙だろう。

生にんにくはさすがに強烈であった。たとえば、北京から夜行汽車で旧満洲に入り、そこでローカル支線に乗り継ぎ、延々と一昼夜荒野を走るのである。

わたしが頻繁に訪れた霍林河という露天掘り炭鉱などは、夜中に最寄の駅で降ろされる。(冒頭の写真は、1986年冬、くだんの炭鉱に行ったときのもの)

といっても、「駅舎」は無いのだ。荒野のまんなかに停車地点がある、というだけのところだった。

仰げば、なにしろ落ちてくると錯覚するほど、満天の星空である。機材などを下ろした後、汽車は出発すると、わたしは相棒の商社の人間とたった二人で線路わきに取り残される。

しばらくすると、真っ暗な地平線の彼方に、ポツンと車のヘッドライトらしきものが見えてくる。解放軍のジープ何台かがわたしたちを迎えに来る手はずにいつもなっていた。

果たして、解放軍のジープが来るとそれに乗り込み、炭鉱へと出発だ。内モンゴル自治区に入り、これまた延々と荒野の一本道を走り続ける。

もし、そこに「デニーズ」が一軒でも現れれば、アメリカのテキサスやアリゾナとさして変わらない。しかし、「デニーズ」は絶対に無いのである。

黒煉瓦を積み上げただけの、いわばドライブインが見えてくる。昼頃、ここによって、兵士や炭鉱現場の人たちと一緒に入り、昼食をとるのだが、なにもない。

あるのは、ただ麺(日本のうどんのようなものである)と、餃子があるだけだ。

麺は、ホーロー引きの洗面器に入ってでてくる。昔、学校の保健室などに手を洗うためにおいてあったような、あれだ。

汁は一応、鶏かなんぞのガラでダシを取っているのだろうが、ただ塩味がするというだけのもので、ほぼ透明。

小椀にそれを取って食べるのだが、副食はまず餃子であった。たいていは水餃子である。焼き餃子は稀にあるが、ほぼ無い。

そこに生ニンニクが皮を剥かれて、どさっと横に置いてあるのだ。

確かに上手いのだが、その後が大変だった。ドライブインを出発すると、とんでもない悪路を、12時間走りづめるのだ。胃の中は、生にんにくで大騒ぎとなり、いつも往生したものだ。

ちなみに、「ザーサイ」などというものも、ふだん食堂などでお目にかかることはなかった。聞けば、とても「売り物」になる食材ではない、という認識だったようだ。

もっとも、これは、正月前後(旧暦、新暦を問わず)、たいていわたしは華北から、満州(現在の東北地方)にいることが多かったためかもしれない。南部へ行けば、また違った正月料理の風情が見られたかもしれない。

しかし、餃子といった場合、基本的には水餃子が大陸では一般的だった。これは台湾でも同じで、水餃子であれば、ふだんから食する機会は多かった。が、焼き餃子だけは「まぼろしの中華料理」と言っても過言ではなかったのだ。

なお、お正月というと、どうしても、新暦・旧暦の違いばかりが頭に浮かぶが、タイ、ミャンマー、ラオスのような仏教国では仏暦をもとに4月ころ正月を迎える。タイのソンクラン、ミャンマーのディンジャンのように水かけ祭りは、一度はテレビなどでも紹介されているのをご覧になったことがおありだろう。所変われば、ずいぶんと習慣も違う。

韓国の旧正月(ソルラル)に欠かせない料理といえば、韓国版お雑煮「トック」。現在でも数え年をする韓国では、「一杯食べるとひとつ年を取る」といわれている正月の定番メニューだ。牛肉や鶏肉で出汁をとったスープに、小判のような形に切った餅がたっぷり入っている。ちなみに韓国の餅はうるち米を使っているので、日本の餅と比べてねばりが少ないのが特徴だ。

スリランカの正月はシンハラ・タミル正月とよばれるもので、例年4月13、14日ごろ。1ヶ月くらい前に占いで決まる。さらにユニークなことに、新年最初におこなうさまざまな行動についてもその時間が決められる。そのため、正月の朝は、決まった時間にかまどに火を付けたり、決まった時間に決まった方向を向いて食事を取るのが決まり。どこか節分の恵方巻きにも似ている。新年の食事の定番メニューといえば、キリ・バットゥというココナッツミルクで炊いたご飯(ミルクライス)。ほかに、バターケーキ、バナナなども並ぶ。

モンゴルではどうかというと、やや中国に似ていて、大量の蒸し「餃子」を作る、モンゴルの旧正月(ツァガーンサル、白い月の意味)は、モンゴル暦で決まり、1月下旬~2月中旬ごろ。元旦からは暦の上では春になるようだ。

そんなモンゴルの正月料理と言えば、羊肉の蒸し餃子ともいえる「ボーズ」。大晦日までにたくさんのボーズを作るのだが、1,000個以上のボーズを作る家庭も珍しくないらしい。そして、飲み物は発酵させた馬の乳から作る酒「アイラグ」が定番。アルコール度数が1~2%と低く、子どもが飲んでも大丈夫。「白い月」という名のとおり、食事も白いものが中心だ。

ベトナムでは、日持ちするもち米のちまきが名物。ベトナムの正月はテトと呼ばれ、中国の春節と同じ日だ。代表的な料理は豚肉と緑豆を使った餅米のちまき「バインチュン」。北部では形は直方形だが、南部では円柱状に作られ、バインテトと呼ばれる。テト近くになると、街なかでバインチュンを売る屋台も多く見かけるようになるという。

ところ変われば、お正月料理も違って当然。とはいえ、どうもこう見渡してみても、おせち料理的なイメージのものは、どこにもなさそうだ。なんとなく、日本の「弁当」文化に通じるものがあるような気がするのだが、どうだろうか。



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