冬虫夏草

雑話


これは233回目。「冬虫夏草(とうちゅうかそう、ふゆむしなつくさ)」といいます。漢方薬に使われることで知られています。チベット等に生息するオオコウモリ蛾(が)の幼虫に寄生して発生する、コルディセプス・シネンシスという麦角菌(ばっかくきん)の一種です。ややグロい話ですが。

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要するにキノコだ。幼虫が、生きているうちにこの菌に感染すると、地中で4年過ごしている間に、生体のすべてに菌が繁殖し、殺す。その養分を得て、地中からキノコとなってはえてくるのだ。

この菌が冬は虫の姿で過ごし、夏になると草になると考えたことから名付けられた。もともと原語はチベット語であり、これを中国語に直訳したときに、「冬虫夏草、Dong Chong Xia Cao」となったようだ。

オオコウモリ蛾の幼虫に寄生する「冬虫夏草」菌は、中国の青海、雲南、四川、チベットからネパールの3000~4000mの高山帯に分布している。「冬虫夏草」の種類は昆虫の種類によって色々あるが、そのうち正統な漢方生薬として扱われるのは、学名コルディセプス・シネンシスと呼ばれるコウモリ蛾科の幼虫に寄生したもの一種類だけだ。ゆえにこの種の冬虫夏草は、絶対量が少ないので幻のキノコと呼ばれ、大変に珍重されている。

「冬虫夏草」に含まれるβ(ベータ)-グルカン(多糖体)は、アガリスク茸の17倍、普通のキノコの約170倍と多量に含まれている。亜鉛、セレン他のミネラル類・天然アミノ酸他のタンパク質など栄養成分の含有量も豊富で、更に、コルジセピンや抗酸化酵素(S.O.D)なども含んでいる。冬虫夏草は免疫力を高め、壊れた細胞を修復する力が強いことが最近の研究で解ってきている。

とくに、制癌作用が注目されている先のβ-グルカンのほか、エルゴステロール・パーオキサイト、コルディセプス酸、コルディセピンなどが含有されている点だろう。また、奇跡のホルモンといわれる「メラトニン」が含まれていることも判明しています。メラトニンは、間脳上部の松果体という内分泌器官から分泌される脳内ホルモンだ。

冬虫夏草の医学的効果の研究は、圧倒的に中国が先行しているわけだが、その公表結果は、目が点になるほど凄い。

性機能低下・・・服用数159回、4週間で、効果64.1%。
心臓病(冠状)・・・33回、4週間で、効果90.50%。
不整脈・・・277回、2週間で、効果74.40%(特効性有り)。
高血圧症・・・273回、1~2ヶ月で、効果76.2%。
B型肝炎・・・33回、2ヶ月で、効果78.56%(免疫球タンパク強化)。
肝硬変・・・22回、3ヶ月で、効果68%(腹水患者に特効性有り)。
悪性腫瘍・・・30回、2ヶ月で、効果93%(細胞免疫機能強化)。
アトピー性皮膚炎・・・38回、2ヶ月で、効果89.6%。
気管支炎(喘息)・・・41回、3ヶ月で、効果94.2%。
糖尿病・・・29回、1~2ヶ月で、効果86.9%。
白血病・・・35回、1~2ヶ月で、効果85.7%。
鼻炎・・・43回、1ヶ月で、効果93%。

ほんとうなのだろうか。また、効果●●%というのは、いったいどこまでの効果のことを意味しているのか、原本を読んでいるわけではないわたしにはわからない。

一口にチベット産の冬虫夏草といっても、採取できる場所は海抜3000メ-トルを下らない厳寒の奥地であり、現地人以外は、立ち入ることもできない。従って、採取は現地の人に頼ることになるが、それでも採れる量には限りがある。その時期は、五月から七月の、雪解けが始まった三ヵ月に限られている。

冬虫夏草を発見することは難しく、大雪原の中から、わずか三センチほど顔を出しているのを見つけ出さなくてはいけないのだそうだ。よほど熟練した人でも、一日中山の中を歩いて、せいぜい10グラム程度だという。

「冬虫夏草」菌が昆虫に寄生すると、昆虫の生体は免疫物質を分泌して必死に抵抗をする。時に菌が負けることもあるが、ほとんどは、冬虫夏草菌はその免疫物質を吸収して化け物のように成長する。まさに、バイオハザードだ。最終的には、形状こそ幼虫の姿をとどめているものの、そこからきのこが生育している。幼虫の抜け殻は、きのこの根のようなものだ。

本来冬虫夏草の薬効は、この昆虫の生体と冬虫夏草菌の生命をかけた「壮絶」な戦いによって顕れるものだ。従って、冬虫夏草菌が昆虫から吸収した免疫物質にその薬事効果があると考えられている。

冬虫夏草は、現在も超高価で1kg当たり、なんと100万円もする。高麗人参が1kg当たり、1万円位だから、いかに冬虫夏草が馬鹿高いかわかる。天然の冬虫夏草(オオコウモリ蛾のもの)は、現在、乱獲され絶滅しかかっているという。もちろん生態が完全にわかっていないため人工飼育も成功していない。

いっとき、中国のスポーツ選手団が、世界大会でどんどん記録を塗り替えた折、彼らが常飲していたのが、冬虫夏草のドリンク剤だったことで、日本でも人気に火がついたことがある。その結果、人工タンクで、培養することも試みられたが、それだけならただのキノコにすぎない。タンク培養の冬虫夏草は、まがい物も含めて大量に市場に放出されたが、たいした効能もなく、冬虫夏草は高いだけのもので何の効果もないと不名誉な評判を残してブ-ムは去った。

だが、未だに、天然ものは極端に高い価格で、しかも、上がり続けている。なにやら、天然物は、やはりそれなりの薬効があるということだろうか。現在、あらためて、昆虫の幼虫から人工的に「冬虫夏草」を培養する試みが、日本でもなされているようだが、果たして結果はどうなることだろう。

冬虫夏草は、漢方としては、オオコウモリ蛾の幼虫の生体に寄生した「冬虫夏草」菌だけだが、実際には、さまざまな昆虫に寄生している。せみ、芋虫、トンボ、蚕のサナギ、蜂等にも寄生するが、カブトムシやクワガタ、カミキリムシなどからは発見されていない。

また、昆虫にならどれにでも寄生するのかと言えば、そう言う訳ではない。セミにしか寄生しないセミタケなどが存在する様に、菌の種類によって寄生する植物の種類も決まっているというのだから、不思議だ。

世界で発見されている700種あまりの冬虫夏草のうち、実は150種が日本に固有のものだ。もしかすると、山歩きや高原をハイキングしているときに、偶然新種の冬虫夏草が見つかるかもしれない。高く売れるどころではない。ノーベル賞級のバイオ薬開発につながる世紀の大発見かもしれないではないか。



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