勝利の方程式~リーディングヒッターの偉業。
これは92回目。勝利の方程式などと、大それたタイトルをつけましたが、なんのことはありません。着実にいこうということです。
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勝負に勝つときには、大勝ちしたいものだ。とはいえ、ホームランを出し続けることなど、不可能といっていい。野球でも、長打者ばかりを上位打線から下位打線まですべてそろえるなど、ありえない。むしろ大事なのは、リーディングヒッターの重要性だ。「まず塁に出る」ことが、勝利の方程式だからだ。
先般イチロー選手が引退を表明したので、彼を引き合いに出してみよう。
米大リーグで、イチロー選手が日米通算4000本安打を放ったとき、えらいことだと思った。日本人としてはまさに偉業と思える事実だったが、一方で日本のプロ野球と大リーグの合算による4000本という計算については、おかしいという見方も当時アメリカではあったのだ。イチロー選手は日本で1278本の安打を打っているが、レベルが低い日本のピッチャーから奪った安打数を加えても意味がない、という理屈である。
大リーグの通算安打記録は、あの時点では、1位がピート・ローズの4256本、2位はタイ・カッブの4191本。4000本を超えていたのは、この二人だけだった。日本のメディアは、この二人に次ぐ記録として報道した。もちろん、日米合算だから、現地米国の見方では、日本の分は勘定に入れないだろう。イチローの記録は大リーグの公式記録にはならない。したがって、「たいした記録ではない」と現地では報道したところも結構あったようだ。
確かに、大リーグは日本に比べて遥かにレベルが高い。しかし一方では、当時イチロー選手のヒットが出るたびに、その合計本数が映写されていたように記憶している。それなりに、彼らも一目置いていたというのは事実だろう。何が、アメリカ人をしてそういう気持ちにさせたのだろうか? 打者といえば、ホームランを打ってなんぼという世界観しかなかった大リーグに、イチロー選手が見せた偉業とはどういうものだろうか。
イチロー選手のような、確実にヒットを出すようなリーディングヒッターは偉大だ。3番、4番に長打者が控えていたとしても、1番、2番の段階でとにかく塁に出ていなければ、どうにもならない。ホームランを一発放っても1点にしかならないが、1番打者が塁に出て、2番がさらに送りバントで走者を前に進めることに成功すれば3番、4番の長打が効いてくる。それが出たときの得点効果は甚大なものになる。上位打線の動き方で、次の一手には選択肢の自由度が広がるのだ。
勝つためにはとにかく、まず塁に出ることだ。その付託に応え続けるということは、大変な仕事だと言わなければならない。投資についても、ホームランを打ちたくなる気持ちは分かる。しかし、一番重要なのは、ホームラン銘柄や大ヒット銘柄を当てることではなく、まず着実に有利な形勢に持ち込むことだ。野球で言うところの、リーディングヒッターがまずは塁に出るということなのだ。
その積み重ねがあればこそ、大きな勝負が可能になる。バントヒットであろうが、四死球であろうが、とにかく塁に出ることを積み上げていくうちに、思いもかけないチャンスがやってくるのだ。そういう大勝負はプレイヤー次第という側面もあるが、必ずチャンスは訪れる。
大リーグの伝説的な長打者、ベーブルースの安打数(本塁打数を含む)は2873本。総安打数はともかく、やはり真骨頂は長打力だった。しかし、チーム(ポートフォリオ)の勝利への貢献という意味では、彼の長打を生かすために努力した、その他の選手たちのたゆまぬヒットの積み重ねがあったことは、間違いのない事実である。