日本の突破口はどこにある?~江戸のロボット

雑話

これは16回目。1990年のバブル崩壊以降、ほんとうにこの国はろくなことがありませんでした。この閉塞状況を打ち破るものが日本にあるでしょうか。ありますよねえ。再生医療だって馬鹿になりません。でもやはり、すでにとんでもないところまで突出しているのは、ロボットなんでしょう。

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アメリカという国は、あれほど自己中心でありながら、作り出す価値はやたらに普遍的であったりする。スニーカー、ジッパー、Tシャツ、ジーンズ、タッパウェア、サランラップ、バンドエイド、ケチャップなどのチューブ容器、シリアル食品、チューインガム、エレベーターやエスカレーター、冷蔵庫、洗濯機など数え上げれば限りがない。電子レンジもそうだ。巡航ミサイル製造大手のレイセオンが開発した。レーダー部門の技師が、ポケットの中のチョコバーが溶けていたことから着想したという。

日本が作り出したもので、こうしたものはあるだろうか。宮崎駿のような、アニメの世界に期待がかかっているが、まだそこまでには至っていないようだ。

いつまでたっても、「学芸会」の域を出ない日本映画だが、それでも黒澤監督のようにハリウッドに多数の信奉者を生み、その技法が受け継がれたような例はある。しかし、そうした輝くような日本の「凄さ」は、おおむね個人技の世界にとどまり、日本の社会的潮流とはいささか異なる。

戦後のものでは、ソニーのウォークマンは、世界中の人々のライフスタイルをひっくり返すほどのインパクトがあった。いまだかつて、日本が生んだ製品で、あれだけの衝撃的な革命はなかったのではなかろうか。当時、ソニーは革命的な「ファッションの会社」だと、外国人たちは高く評価していたものだ。

それを考えれば、アップルの「iPod」などは、ただの亜流にすぎない。スマートフォンという、携帯電話でインターネットをするというのも、NTTのi-modeが世界で初めてのことではなかったか。

乾電池はもともと日本の発明だ。新幹線は、世界の陸上輸送に革命的衝撃を与えた。カーボンナノチューブもそうである。プラモデルもそうだ。探せばいくらでも出てくる。考えてみれば、独創的なものが実に多いのに気づく。

いま日本に、世界をリードする普遍的価値を持っているものがあるだろうか。かつては半導体がその旗手だったのだが、いまや見る影もない。しかし、落胆することはない。その代表的なもののひとつにロボットがある。寸分の狂いもなく、製造過程の半導体を所定の位置に移動させる技術も、一種のロボットだ(工作機械という範疇に入るが)。要するに機械仕掛けである。このロボットという世界は、どうやら日本人のDNAに潜んでいる特異な才能であるらしい。

古くは、江戸時代に木製ロボットが花開いた。いわゆる「からくり人形」だ。茶運び人形は、主人のところから客人のところへ、お膳にお茶を乗せてカタカタと移動していく。客人がそれを取って飲み、空にして返すと、またカタカタといって主人のところに戻ってくる。三味線を弾く人形もあれば、数十メートル先まで矢を射る人形もあった。祭りの山車から繰り出す人形は、いまでもお目にかかることができる。文楽やこの木製ロボットという技術は、現在のアンドロイド型のロボット開発につながっている。

思えば、戦後の焼け跡から高度成長期入りする前後。私が親のガマ口から30円かすめて少年サンデーや少年マガジンを買いに走った頃、「鉄腕アトム」や「鉄人28号」が登場した。人間を巨大化させるバイオテクノロジーという概念では「ビッグX」が、サイボーグという概念では「エイトマン」が、その派生として生まれていた。

考えてみれば、その設定は少年モノにしてはかなり暗い歴史的なバックグラウンドがある。鉄人28号などは、第2次大戦中、対米戦争の最終兵器としてつくられたという設定だったし、エイトマンも殉職した刑事の死体が前提になっていた。ビッグXは、ナチスドイツの最終兵器として、兵士を巨大化させるワクチンが前提になっていた。実は非常に暗い話だ。

その中で、なんといっても鉄腕アトムが世界的なヒットとなり、群を抜いた空前の金字塔を打ち立てた。このアトムを生み出したDNAこそ、江戸時代のロボットの記憶だったことは間違いない。そして、少年時代にアトムの洗礼を受けた世代が、いま二足歩行で、自分の意思によって行動するアンドロイド(人造人間)を開発している。市場はまだ100億前後と日本最大の自動車産業に比べて非常に小さいが、21世紀という100年単位でみると、20世紀の自動車産業に匹敵する可能性があると言われる。

アメリカがバイオなら、日本はロボットだ。日本の工作機械という業種は、欧米のそれが産業機械の延長なのに対し、明らかに二足歩行のアンドロイドを目指している。米国映画「ターミネーター」で使われたロボットも、安川電機製である。

日本が世界に冠たる素材産業国家だと外国人投資家が認識しているのも、このセクターあってのことだ。今後は、ロボットが一般家庭にも入り込んでいく、一段次元の違う世界が待っているだろう。どうやら日本人は、遊びの文化から「本物」を作り出す才能があるようだ。アニメも、もしかすると空前の、予期せぬ爆発力を秘めているかもしれない。

やっぱり、新しいもの、なにか革命的なものというのは、眉間にしわを寄せて、机に向かってうんうんうなっていてもだめなのだろう。常識から外れたもの、完全な遊び、まったく顧みられておらず、無価値としか思われていなかったもの、そこからとんでもないものが生まれるに違いない。衣食住遊のうち、遊では世界中でこれだけコンテンツの揃った国もないはずだ。

ということで、どんどん遊びましょう。遊ばない国民は、滅びますぞ。



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