パラレルワールド

怪談

これは333回目。パラレルワールド(平行世界)のお話です。以前は、存在しないと言われていました。妄想であり、SFの世界の話だと。でも、量子力学の研究が進むにつれて、あるかもしれないという話に変わってきているらしいのです。実は、このお話、つまるところ怪談です。

:::

そもそも、時間の流れは一つのベクトルだ。過去、現在、未来は、一本の時間軸を、同一線上に存在していると、考えられる。だから、わたしたちがよく後悔するとき、「もし、あのときこの選択をしていれば」などと悔やむわけだ。

この時間の進行だが、もしかしたら、わたしたちの言動というものは、必ずしも偶然ではなく、すべてが必然であり、最初から決まっていたという考え方がある。いわゆる決定論である。

この決定論者に言わせると、宇宙の仕組みというのはビリヤードに似ているという。

最初の一突きで玉が動く。それが、すべての玉の動きを決定してしまう。玉が物理法則に従って動いたからだ。

この宇宙におけるすべてのものが原子によって構成されており、最初のビッグバンが発生した時点で、宇宙世界すべての原子の動きは決定されたことになる。

今わたしがこうやって駄文を書いていることも、それを読んだ読者が、くだらねえと思うことも、すべて数百億年前から「決定されていた」ことになる。

これがいわゆる決定論だ。時間軸が一本しか無い、つまり、パラレルワールドなどは存在しないという考え方だ。

確かに原子のレベルまではそうかもしれない。しかし、もっとミクロの、電子の世界にまで行くと、必ずしも決定論は有効ではない、という。

電子は原子核の周りを回っている小さな素粒子だが、その電子の動きは物理法則に従っていないというのだ。

電子は粒子としての性質を持ちつつ、波の性質も持っており、いわば「 同時に複数存在している」というのだ。こういう話になってくると、わたしなどは到底お手上げだ。
仮に電子のビリヤード・ボールを突いたとしても、どこに飛んで行くかどうかを特定することは出来ないというのだ。これは、電子のスリット実験から得られた驚くべき発見なのだそうだ。

まだ、観測は完全には進んでいないらしいが、この考え方を推し進めていくと、この宇宙では、同時に複数のビックバンが起きていて、異なる歴史線が同時に進行しているかもしれないというのだ。

よくわたしたちの世界は三次元の世界という。立方体の概念だ。

わたしたちは二次元の世界を知っている。点と線だけの世界だ。しかし、二次元の世界にかりに生命体が存在していたとしたら、彼らは三次元のわたしたちの世界など、想像すらできない。

だから、いきなり三次元のわたしたちが、鉛筆で二次元世界である紙っぺら一枚にぶすりと刺してしまっても、彼らは驚天動地の大騒ぎをするわけだが、なにが起きたのかまったく見当もつかない。きっと、「神がお怒りになったのだ」とか、「魔物がわれわれの世界を滅ぼしに来た」とかいって騒ぐのである。

それと同じで、わたしたち三次元にいる人間にとっては、四次元の世界などおよそ想像ができない。つまり立方体に時間軸が加わった世界だ。その時間軸は過去から現在、未来へと一方的に進行するものではなく、同時に存在する時間軸であり、過去と未来を自由に行き来できる。

たとえば、霊的な存在があるとして、次元が違うのであれば、彼らは四次元の世界にいるのかもしれない。だからわたしたちにとって、一方的に過去から進行してくる時間軸上を、彼らは自由に、あるいは偶発的に逆行したりしてきて、わたしたちとたまたま遭遇してしまっている、そういう類かもしれない。わたしたちはそれを理解不明なので幽霊と呼んでいるのかもしれない。

というのは、こんな話がある。ある男性がコテージの中で、二階から階段を下りていくとき、下から見知らぬ女性が上がってきた。その部屋には、自分以外誰もいないはずなのだ。

お互い、ぱっと目があって、彼は「アッ」と声をあげた。彼女はびっくりしてこちらを上向きながら足を踏み外し、階段をずり落ちていき、階下でひっくり返った。

挙句の果てに彼女は「びっくりしたなあ、もう…」と言って、そのまま消えていったというのだ。

怪談なんだか、オカルト風味の笑い話なのか、と思われるだろうが、本当のことらしい。

しかも、どう調べても、そのコテージには、過去たとえば人死にがあったとか、いわくつきだといったような経緯はまったく見つからないという。

これまでそこに入った誰も、そんな経験をしたことが無い、ともいう。

しかも、興味深いのは、幽霊であれば、こちらを認識することもあるだろうが、まったく認識しないで、お互いすり抜けていってしまうことも多いはずだ。が、この場合、お互いにぼんやりとではなく、鮮烈に認識しあっている。実体を伴った遭遇なのである。

その女性は階段を、まるで生の人間のように、ずり落ちながら、階下まで落ちて尻もちをつき、「びっくりしたなあ、もう・・・」と明らかに反応しているのである。

この話が仮に事実だとすると(事実らしいのだ)、まったく違う平行世界が存在しており、たまたまわれわれの世界と接点となる瞬間が偶発的に発生し、二人が出くわしてしまったということも考えられそうだ。

でなければ、説明がつかない。

幽霊というのも、もしかすると、それに近い存在なのかもしれない。そんなことを思った次第。
そう考えると、全然怖くない。かな?



怪談