一発必中
これは334回目。狙撃手(スナイパー)のお話です。兵士の中でもかなり特殊な立ち位置の人たちです。まぎれもなく戦闘員なのですが、彼らの任務はまずその存在を消すことから始まり、痕跡を残さないことで終わります。
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2009年11月、アフガニスタン。ヘルマンド州ムサ・カラ県のこと。
英国陸軍近衛兵軍曹、グレイグ・ハリソンは観測手とペアで獲物を狙っていた。そしてタリバンの機関銃手を射殺。続けてさらに2名射殺。
その距離、2475m。L115A3長距離ライフルを使用していた。
これは、戦闘中の狙撃最長射程距離と記録された。
弾道ソフトウェアによると、ドップラー抵抗係数の連続データから割り出したものらしいが、弾丸の滞空時間は6秒。着弾までに、運動エネルギーの93%を失速。弾丸は初速936mから、255mに減速し、当初の射線から121.39mはずれるか、あるいは、2.8度分の落下をして標的に命中している。
毎秒2.7mの微風でさえ、射撃を標的から9.2mも偏流させるので、発射時にその補正をしなければならない。
ハリソンはそれを成し遂げたことになる。
戦争なのか、ゲームなのか。いや、まぎれもなく戦争なのである。
ベトナム戦争中にも、アメリカ軍にはとんでもない狙撃手がいた。カルロス・ハスコックだ。
彼の口癖は、「One shot, one kill(一発必中)」だった。
北ベトナム軍の将軍を暗殺したことがある。彼は、北ベトナム軍の厳重な警戒下にあるジャングルを、匍匐(ほふく)前進を3日間繰り返しながら、合計1km以上の距離を移動し、635mの距離まで敵の司令部に接近。将軍を狙撃、任務を果たした。
この任務の際、ハスコックは3日間で小さな水筒の水のみを口にし、糞尿はすべてズボンの中に垂れ流し、匍匐前進の繰り返しと虫刺されで全身水ぶくれになっていた。
公式には狙撃による射殺記録は93名。ただし、未確認戦果が多すぎ、推定300名以上と言われる。
有名な狙撃ケースがある。映画『山猫は眠らない(トム・べレンジャー主演)』のモデルになった、「スコープ越しの狙撃」だ。
北ベトナム軍はハスコックらに対抗すべく第55高地に12名もの狙撃手を送り込んだ。
その中の一人、北ベトナム軍の謀略放送で「コブラ」と呼ばれていたスナイパーとの戦闘は通称"「Cat and mouse(猫と鼠)」と呼ばれ、伝説となった。
ハスコックと観測手のジョン・バーク伍長は、その日、北ベトナム軍の将校を800ヤードの距離から仕留めた。これは北ベトナム軍が、ハスコックをおびき寄せるための囮(おとり)であったとされている。
その帰途に、ハスコックは目に光が入ったことに気づいた。反射的にその光に向かって狙撃すると、500ヤード先の茂みの中で射殺された「コブラ」を発見した。
光る敵のスコープ越しに放たれたハスコックの銃弾は、そのレンズを貫通しコブラの眼球に命中していた。
コブラの死体を確認して賞賛するバークに、ハスコックは冷ややかに答えた。
「彼がレンズに目を当てていたということは、彼も私を標的にとらえていたということだ。私が先に撃ったのは運が良かったにすぎない」
確かに運かもしれない。しかし、運やツキはただの偶然ではない。
かつてOK牧場の決闘で有名な保安官ワイヤット・アープが、仲間のドク・ホリデーと交わした会話が残されている。
ドク「俺はツイてない。」
ワイヤット「ツキは呼ぶもんだ。」
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