食い物に興味があるうちは・・・

雑話

これは462回目。

食い物の話だ。
そもそも、人間、食い物に興味が無くなったら、もう終わりだと言っていい。
大量に食えなくていいのだ。
関心があることが大事なのだ。
まだ、自分は元気だとわかる。

もともと料理は好きなのだ。
在宅で仕事をしているわたしだから、朝昼兼用の食事を、ブランチと気取ってつくっては食している。食い物に興味があるうちは、まだ自分は人間なのだと思っていられそうな気がするではないか。

ただ、食うだけでは飽き足らないのだ。自分でつくりたいのである。

それはおそらく、自分の好みの味にしたいからだろう。あくまで欲がモノを言うのである。

最近、本屋でいい本を見つけた。
マガジンハウスが出している「朝10分でできるスープ弁当」という本だ。
有賀薫さんという方が書いておられる。

汁物が基本、わたしは好きなのだ。
いつまでたっても流動食を好むということは、それだけ幼稚性が強いということだろうか。

この本のいいところは、そのへんにある食材や調味料だけで、あらこんなに簡単にできちゃうの、という感じでよろしいのだ。

パン入りのオニオンスープ
玉ねぎと牛ひき肉の塩スープ
モチ麦と鶏肉のリゾット(わたしはドロっとするより、スープっぽいほうが好きだ)
ブロッコリーとトマトの酸辣湯
長ネギと鶏皮の塩スープ
焦がしネギと鶏肉のスープ
キノコと牛肉のスープ
キノコと豆腐の担々スープ
鮭と野菜のミルクスープ
豆とミートソース缶のクイックスープ
等々

付箋を貼り付けて、いつもこれを見ながらササッとつくっては悦に入っている。

だいたい年齢が年齢だから、手軽なこの感じが絶妙に良い。
スープジャーがあると、そのまま弁当箱になってしまうし、調理もできるので、非常に便利らしい。
が、適当にいつも取っ手のついた小鍋で済ませている。

料理というのは、相場もそうだが、結構頭を使うのだ。
勘も必要だ。
レシピは大事だが、絶対同じものはできない。
人によって加減が違うからだろう。

誰しもそうだろうが、自炊するとなると、たいてい定番というものがある。

面倒なときには、フランスパン、ベーコン炒めかチョリソー炒め、卵(スクランブルのときもあれば、目玉焼きのときもある)、シメジやらなにやらきのこ類の炒め、それに、トマト一個を薄切りにする。
温かいご飯を、これらをすべて一つの大きな皿に入れる。

ここでおそらく、ふつうの人と違って、わたしの場合とてもとても重要な一品がここに加わる。

バゴオン(Bagoong)という食材だ。
長いこと、仕事でフィリピンをうろついていた時代があり、そこでこのバゴオンの味に魅了された。

おそらくアジア食材を売っている専門店なら必ず置いているはずだ。
面倒なら、アマゾンや楽天で注文すればいいだろう。

(バゴオン)

要するに、塩辛なのだが、イカではない。
オキアミ(小エビ)の塩辛なのだ。

(バゴオン)

爪の先ほどの小エビを塩漬けしたもので、これがまた塩辛どくとくのあの匂いと、しょっぱいことしょっぱいこと。

フィリピンでは、なにかにつけてこのバゴオンをおかずにちょちょっとなすりつけては米といっしょに食う。
とくに、薄く切ったトマトをスプーンで切ったり、潰しながら、ご飯といっしょに掬い、このバゴオンを少し混ぜる感じで食うのだ。

これがたまらない。

まあ、好き好きはあろうが、好きな人はまずたいてい「病みつき」である。

「病みつき」といえば、たまにわたしはこのフィリピン料理の定番である、シニガンをつくる。
これこそ、一生のうちに「こんなうまいものがあったのか」と、驚愕と幸福感で満たされた、数少ない料理だ。

これも好き好きだから、なんとも言えないが、強烈にすっぱく(酸味が強い)、米とトマトとバゴオンで混ぜながら食う。
朝昼晩連チャンでわたしなどは延々とシニガンを食べ続けることができる。

家族の間では、大変不評である。
彼らは、味というものがわからない人種なのだ。
その意味では、わたしより遥かに下等な動物だと思っている。

「なにがフランス料理だ。材料の悪さを、ソースでごまかしているだけじゃないか。」というと、怒られた。

もっとも、ほんとうのフランスの家庭料理というものをわたしはとんと知らないので、批評できる資格などないのだが。
先入観だけで物を言っているのだ。
他意はない。

さてこのシニガンだが、使う材料は以下の通り。(わたしの場合である。しかも、2-3回は食える量)

トマト(1個あるいは、2個)
大根(半分)
オクラ(1袋)
インゲン(1袋)
空芯菜(1束)
豚バラ肉の塊(600g。わたしは作りだめする場合、600gを2本くらいを、2-3cm四方にぶつ切りにして使う)

水を鍋で沸かし(本当は米の研ぎ汁が良いのだ)、そこに、ぶつ切りにした豚バラ(脂がたっぷりくっついたやつだ)を突っ込む。
大根も2-3cmくらいにぶつ切りにして一緒に突っ込む。
このとき、早くもトマトも入れる。トマトは1個を4つに切って入れる。最終的に形が無くなっても構わない。

十分火が通ったところで、インゲンやらオクラやら、空芯菜やらを入れる。

さて、味つけだ。

昔は、レモン汁を一本まるまる使った。
そして、魚醤で塩味をつける。これこそ好き好きだから、人によって量はかなり違うような気がする。
しょっつるでいいのだ。
胡椒やら、鷹の爪(まるごと)など適量を突っ込んでも良い。

簡単だ。
これで出来上がり。

できるだけ本場の味にしたい向き、あるいは、加減をつけるのが面倒でわからないという向きは、これまたシニガン・ペースト、シニガン・パウダーというのが、売っている。
アジア食材専門店なら、絶対ある。
あるいは、例によってネットで買っても良いだろう。
写真は、クノール製のパッケージだ。
わたしは、一回に1袋をそのまま使う。
塩味や酸味が微妙に足らないと思えば、魚醤やレモン汁を加えれば良い。

(シニガン・パウダー)

(シニガン)


問題は、食い方だ。

例によって、ご飯と、トマトの薄切りと、そしてバゴオンを大さじ一杯、大皿に乗せる。
スープごとシニガンを取り分け椀に入れて、そこから具を大皿に移しては、ご飯とトマトとバゴオンを混ぜながら食うのだ。

これを読んで美味いと思うか、え~っと思うか、人それぞれだろうが、騙されたと思って一度食されたら良い。

わたしは、一生飽きない食い物としては、日本のお茶漬け(魚はアジでもハラスでもホッケでも、とにかく塩焼きなら何でも良い。)それと、シニガン。
この二つしかないと思っている。

正直、この二つの食い物を味わい、美味いと思える自分は、たぶん世界で一番幸せな人間の一人だろうと信じて疑わない。



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