リスクを取るものだけが・・・

政治・経済

これは425回目。2020年4月15日にNOTEに掲載した文です。

今年3月から株式相場はとんでもない暴落に見舞われました。外人売りがかさんだ一方で、日本の個人投資家は果敢に買い続けるという、外人売りvs日本個人買いの、壮絶なバトルが続いています。・・・

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ここはわたしの本業の相場を語るところでもないので、投資戦略や相場想定に言及するつもりはまったくない。

ただ、3月暴落が始まった時点で、会員にお話していたのは、世紀のナンピン買い、新規買い、なんでもいいから買うという判断をしていた。実際そうした。暴落→景気循環の終焉という大方の悲観シナリオが間違っていると判断したためだ。景気後退は一時的で、政策発動によって一気に盛り返し、お釣りがくる(バブルが来る)と読んだからにほかならない。これは、自分の過去の経験から割り出した結論だった。

過去、四半世紀にわたるわたしの市場とのかかわりの中で、暴落に際しては絶対に買うな、売れということを言っていた。本格的な景気循環終焉を伴う暴落というのは、必ず事前に予知できるからだ。

しかし、今回は生まれて初めて、暴落で買うという判断をした。その根拠は、先述通り、V字型で反騰すると踏んだからにほかならない。具体的な判断の詳細は割愛する。

なぜ、そんな話を冒頭で書いているのかというと、なんと個人投資家がこの暴落でものすごい勢いで買っているからだ。

3月26日付の日経新聞の記事を、「まんま」転載する。

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『インターネット証券で新規口座を開設する個人が急増している。楽天証券では2月の開設数が初めて10万を超え、3月は2月比で3割程度増えそうだという。初心者が足元の株安を「投資を始める好機」と捉えている。これまでの相場下落局面でも新規開設は増えたが、広がりは一時的だった。個人投資家の定着には証券会社のアフターフォローが課題だ。最大手のSBI証券も3月には13万程度に上る見通し。松井証券、auカブコム証券、マネックス証券も3月は大幅に増えそうだという。合併などで振れが大きいマネックス証券を除く大手4社の1~3月の開設数は初めて50万を超えそうだ。新規開設はリーマン・ショックなどの株価急落局面でも増えたが、過去を上回る勢いだ。・・・「休眠口座」も動き始めた。・・・東京証券取引所の投資主体別売買動向によると、個人投資家は前週まで6週間連続で日本株を買い越した。株安が個人の投資意欲を喚起しているのは間違いなさそうだ。』

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過去、日本の株式市場は、外人(とくに米系)によって、さんざん上に下に振り回されてきた。

こんな国は先進国のどこにもない。どこも個人というものは、自分の資産運用をしっかり行っており、個人投資家の層は厚い。これに対して日本は、結局、株式投資というものを、競馬などの賭博以下のイメージでしかとらえていない。

個人は戦後ずっといい気になって自由を金科玉条のごとく叫び、それに便乗して国家は自己責任とすべてを個人に押し付ける。

この流れの中で、一番大事な、個人が自分で自分の身を護るという術を、一向に学ぼうともしなかったし、国もなおざりの投資教育というお題目だけ唱えて、個人の金を年金補填に吸収するための制度(小額非課税制度、ゆうちょ民営化など)だけはせっせと行ってきた。

お寒いかぎりだ。

喧嘩の仕方も満足に知らない個人に、やれグローブをはめろ、やれマウスピースを口に入れろ、さあリングに上がれ、と言っているのだ。

クリンチの仕方も、ジャブの打ち方も、ステップもストレートも、カウンターのやり方もなにも教えられていない個人に、百戦錬磨の外人連中とリング上で戦えといっているのだ。おかしな話ではないか。

小学校から、投資理論を学科で勉強する機会があるアメリカ人と、それでまともに戦えるわけもない。大人と子供の喧嘩だ。

そんな中でも、個人はこの二ヶ月、売りで攻め寄せる外人に対して、徹底的に買いで応戦した。

予言してもい。この日本の個人の抵抗戦はかならず報われるはずだ。

不思議なことに、過去のデータと日経平均のチャートを比べてみた場合に、統計上の個人投資家の買いと、日経平均の相場大底は、ぴったり一致する。

外人は逆である。暴れ回るわりには、実は下手なのである。ただの力技だからだ。

つまり、常に最終的に勝利しているのは個人だという皮肉な結果のデータが明らかになっている。

投資理論も、市場原理も個人はさほど詳しくない。

それが、理屈ばかりをこねて万年弱気の国内機関投資家や、生き馬の目を抜くような米系機関投資家に対して、一歩も引けをとらない日本の個人投資家のタイミングの良さというのは、ほとんど奇蹟といっていいくらいだ。

この暴落商状で、「落ちてくるナイフ」を素手で掴んで、いったんは血だらけになっても、最終的に笑うのは個人投資家になるはずだ。

それはリスクをとったものだけが、得る勝利という果実なのだ。

今、果敢に売り叩かれた日本という価値を買っている個人は、総人口からいったらどのくらいだろうか。

東証のデータでは5100万人ということになっているが、ありえない。これは延べ人数であり、名寄せすれば実数はもっとずっと少ない。(ダブり勘定が多いのだ)

一般に言われているのは全体の2割前後という推計値だ。とすると、2400万人。

このうち、債券や為替、商品など株以外も多い。実際に株に実弾を投じている分はさらに少なくなる。

ましてや、この暴落で攻撃的なアクションをとっている人というのは、恐らく数%でしかないはずだ。

50万口座(人)として、総人口の4%でしかない。

このわずかな人たちが、日本がピンチから抜け出すぞという、一番最初の「のろし」を上げた人たちなのだ。

それは、いろいろ思惑はあるだろうが、共通していることは「この国の回復を信じている」という一言に尽きる。

リスクをとった者だけが、最終的に笑うことになるのだ。

この国の人の多くは、いまだに「お上」を信じている嫌いが多すぎる。そのくせ、日常、文句ばかり言う悪弊もある。お上を信じるなら文句を言うな。文句を言うなら、お上を信じるな。

かつて1945年8月15日に、あれほど国論一致で総力戦に協力したのに、最後の最後に国家は国民を助けてくれなかったではないか。

あの教訓を経た国の人間とはとても思えない。

最後は自分で自分を護る、国ですら最後は当てにならないということを身にしみた国民であるにもかかわらず、未だに「お上」を信じて、終身雇用制と会社づとめ一つにこだわっている大多数の国民は、この国の行く末をどう思い、それに対してどう自分は生き残ろうとしているのか、その存念を聞いてみたい。

少なくとも、今暴落の中で買っている個人投資家というのは、黙々とその答えを身を以て示している。それだけは確かだ。日本が1989年以来、延々とデフレ経済に呻吟してきたのは、なにも政府の無為無策無能ばかりではない。会社経営にしろ、個人にしろ、日本人というものがリスクを取るということに、極端なアレルギーを持っていることに、根本的な要因がある。

生まれてきたこと自体が、最大のリスクを負ってしまっているのにもかかわらず。



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