中国のアキレス腱

政治・経済, 歴史・戦史

これは370回目。

中国共産党の一党支配体制が一番恐れているものがあります。そのアキレス腱は、選挙と徴税です。

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運用の世界では、一つの不文律があります。

「徴税能力の無い国家に、投資してはならない」

さて、中国はどうでしょうか。

もともとマルクスは、共産主義の到来の後に課税は不必要になると想定、そして「国家は死滅」と考えた。

したがって、共産主義革命をした中国は、大部分の政府の歳入は、それまでの企業の所有権を簒奪し、それを運用したので、課税は重要ではなかった。

共産中国が成立(1949年)以降、当分は実にお気楽な「中国式税制」を敷いてきた。

経済解放が行われる直前の1985年当時、都市の市民の平均月収は、60元。これを単純に12倍して、ボーナスも少し加味し、個人所得税は、年収800元以上になって初めて納付義務を持つと定めていた。

早い話が、都市の市民の半数以上は、所得税ゼロだったのだ。

それが江沢民時代の1994年に、税制の抜本改革を行った。国税と地方税とを分離し、合わせて「中華人民共和国増値税暫行条例」と「中華人民共和国消費税暫行条例」を施行した。

増値税とは付加価値税(日本の消費税に近い)のことで、消費税とは嗜好品税(贅沢品税)のことである。

一方、経済解放がどんどん進んでいく中で、所得格差が歴然となっていった。共産主義とはとても言えない状況が起こってきたのだ。

全体の2割以下の高所得者が、個人資産全体の8割以上を所有しているという超格差社会と化している。しかも、彼ら高所得者が納める個人所得税は、全体の1割にも満たない。つまり究極の脱税大国なのである。

たとえば、驚くべきことが告発されている。税金を徴収するためのコスト(主に税務署職員の人件費)が、アメリカは税収の0.6%に過ぎないが、中国は、最大8%にも達するという。

一体この差はなんだと思うだろうか? なんと、日本円にしてみれば、5-6兆円もの大金が、税務署職員のポケットに消えているのである。これが中国共産主義の実態だ。

近年フィナンシャル・タイムズが報じたところでは、2015年の時点で、実際に個人所得税を収めたのは、全人口のわずか2%だったという。

国と国民が互いに騙し合う均衡がずっと取れている時代が続いていた。

ところが2018年、そんな中国にも激震が走った。有名女優の范冰冰の脱税が判明し、(内部告発されたもの)追徴課税と罰金合わせて168億円相当の支払いを命じられたのだ。

共産党は本気で徴税を始めたのである。

しかし、長年、税という概念が忌避されてきた中国で、まともに徴税を行使していくのは至難の技だ。

その第一歩が、一つには権力闘争の一環ではあるのだが、習近平体制による汚職摘発を名目とした粛清運動である。

これには徴税汚職をしている官僚も含まれているわけで、多くの反発を呼んでいる。

そもそも、かつて蒋介石・中華民国政府がつまづき始めたのは、塩に対する課税が発端だった。それが共産党の台頭を許し、最終的には共産主義革命になっていった経緯がある。

税というのは、中国では鬼門のテーマだということだ。

そして、もし習近平体制が徴税を本格的に推進していくとしたら、「それなら、徴税した膨大な歳入は、一体どういう理由で、何に使用されたのか」を政府が説明しなければならなくなってきかねない。

つまり、支払う側の国民の当然の要求である。政府は説明責任を果たさなければならなくなる。

もちろん、政府の主張に対して、国民はそれを審議する場所を要求することに行きつく。つまり、議会である。それには、選挙を要求されることになる。

建国以来、一度も選挙をしたことのない中国。

建国以来、まともに徴税を行ったことのない中国。

この2つのハードルは、下手をすると中国共産党の体制そのものを破壊しかねない爆弾である。

今その、2つの問題の核心で大揺れに揺れているのが香港ということになる。それも、広東省に拡大する気配を見せているから、習近平政権も心穏ではない。

さて、中国はこの2つのテーマをうまく処理できるであろうか。