天国という名の国

歴史・戦史, 雑話

これは406回目。

さて今回は、また日ユ同祖論のお話です。

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読者はいささか食傷気味だろうが、まだしつこくユダヤ人のことを書く。わたしたちが、普通ユダヤ人というと、白人の顔のような、(先入観から)やや鷲鼻のイメージを思い浮かべる。が、どうもそうではないらしい。

全世界に1340万人のユダヤ人がいるといわれているが、そもそもユダヤ人という民族種別ははっきりしないのだ。

イスラエル国内では、ユダヤ教を信仰していないユダヤ人は、イスラエル人と呼ばれているし、ユダヤ人とはユダヤ人の親(あるいは母親)から生まれたユダヤ教徒であるという定義もある。

ヘブライ人というのは、ユダヤ人と同義と考えてよいが、しょせん民族的種別、とくに身体的差異からヘブライ人ないしはユダヤ人と特定するのは、非常に困難だ。しかも話を複雑にさせているのは、ユダヤ人のハーフという言い方は基本的にはなされないのだ。少しでもユダヤの血が混じっていたら、ユダヤ人であるという習慣も厳然としてある。

日本人とユダヤ人は、以前、「日本人とユダヤ人」でも書いたように、その平仮名、片仮名、単語の近似性がきわめて高いということはよく知られている。このため、日ユ同祖論など戦前から言われてきた議論もある。

しかし、結論から言えば、そもそもヘブライ人(ユダヤ人)というのは、古代、白人ではなかったのだ。古代イスラエル人と血統的につながりをもつのは、アブラハムのときにわかれたパレスチナ人であり、実は彼らは白人ではない。

さらに旧約聖書にさかのぼると、人類の始祖アダムとイブの子孫にノアが出る。ノアの3人の息子の「セム、ハム、ヤペテ」は、セム=黄色人、ハム=黒人、ヤペテ=白人の祖先になったとされている。それぞれ違う資質を受け継いでいたからに他ならない。

最も重要なのは、アブラハム(後に子孫にイスラムを信仰するアラブ民族が出る)、ダビデ、ソロモン、イザヤ、さらに、イエス・キリストを含む全てのヘブライ人はノアの3人の息子の中の「セム」の子孫という点だ。当然ながら、ヤコブも「セム」の直系であり、イスラエルの12支族全ても「セム」の子孫、すなわちアジア系民族ということなのだ。

これは「旧約聖書」という「神話」が書き残している、民族血統の一番重要なポイントである。創世記第11章にアブラハムの系図として10節から26節に明確な記載があるのだ。つまり白人系の「ヤペテ」の子孫は、「セム」から生まれたヘブライの純粋な血統ではないし、イスラエル人でもないというのが厳然たる事実なのだ。

それでは今のイスラエルにいる白人系ユダヤ人とは何者か。彼らは白人系民族のユダヤ教改宗者ということで、血統的なイスラエル人ではない。ユダヤ教白人種(俗にアッシュケナジー系)という意味でのユダヤ人なのだ。

このユダヤ白人種(アシュケナジー)は、紀元8世紀頃、黒海北方に存在したアーリア系白人国家「カザール」の末裔ということが歴史的に判明している。

しかしユダヤ教に国をあげて改宗した「カザール」も、ビザンチン帝国とモンゴル帝国に攻め滅ぼされ、11世紀に滅亡する。そのため、難民となった白人系ユダヤ教徒は西に移動し、ヨーロッパでユダヤ人として生きていく。とくに、後のロシアに多く残存していくこととなった。

もちろん、純粋に血統的なユダヤ人(セム=黄色人種)の一部もヨーロッパに移り住んだが、多くのものはパレスチナの地で、仲間であるパレスチナ人と共に暮らすことになる。

彼ら純潔血統性ユダヤ人を「スファラディ系ユダヤ人」と呼び、1960年時点で、セム系/スファラデェイ系ユダヤ人は約66万人と推定されている。かれら、スファラディ系ユダヤ人たちは、その血統的な純潔性にもかかわらず、血統的にユダヤ人ではない白人種の「アッシュケナジー系ユダヤ人」により、差別されて下級市民として扱われている。今日のユダヤ人の9割以上は血統的に正当のセム族ではない。

つまり、「アシュケナジー系ユダヤ人」とは、「イスラエル失われた10支族」ではないのだ。彼らは「バル・コクバの戦い」で、ローマ帝国に逆らい、紀元後136年に国を失い、散らされた「ユダ王国(南王国)」の末裔である。

では、現在でも血眼になってイスラエルが探し続けている「イスラエルの失われた10支族」とは、誰なのか。それは「イスラエル王国(北王国)」にいたイスラエル人のことで、先述のセム系、つまりモンゴロイド系が殆どであった。

実際の冒頭でも述べたように、「モーセ」、「アブラハム」「イエス・キリスト」等は明確にアジア系有色人種なのである。これは日本人を含むモンゴロイド系民族が「イスラエルの失われた10支族」の末裔の可能性を強く示唆している事実であり、これゆえに、イスラエルは戦後建国以来、必死になってその純潔性血統を維持する彼らを、チベットで、モンゴルで、あるいはまた日本にまで来て、探し続けているのである。

もちろん、これらの説は「旧約聖書」をただの「物語」であるという前提を論拠に、アカデミズムでは徹底的に否定されている。

しかし、ユダヤ人の言語学者ヨセフ・アイデルバーグは、強くこの説を主張している一人として知られて、彼の著書には「ヤマト民族はユダヤ人だった」はかなり衝撃的な内容であった。

アイデルバーグは1916年、革命前夜のロシアで生まれて、イスラエルに移住。その後、アメリカで理工学を学び、ヨーロッパで言語を修得。イスラエル建国前は、地下軍事組織「ハガナ」のメンバーであり、建国後はイスラエル国防軍の陸軍少佐を務めた。現在はイスラエルで、歴史、言語、民俗学を研究している。筋金入りの、シオニストと言っていいかもしれない。そのアイデルバーグが、日本人と古代ユダヤ人(ここで言うところの、純潔性ユダヤ人の血統)とはつながっている、と主張しているのだ。

アイデルバーグの説によれば、神武東征(閑話休題では、東遷としているが)のころ、どうやらユダヤ人は日本列島に入ってきたということらしい。10支族が国を失った後、ちりちりばらばらに、サマリアを出て、しばらくして神武東征が開始されているという点では、年代がかなり符合する。

天皇の公式名スメラ・ミコトは、アイデルバーグによれば、古代ヘブライ語の一方言で「サマリアの陛下」を意味し、神武天皇の正式名“カム・ヤマト・イワレ・ビコ・スメラ・ミコト”は、「サマリアの皇帝、神のヘブライ民族の高尚な創設者」という意味になるとしている。

「大化の改新」も、日本の古語では「タイクワ」と書かれていたが、これは、ヘブライ語で、「希望」という意味だという。実際、“タイクワの改新”の法律は、ほとんど旧約聖書の内容と一致すると指摘する。

日本の古代社会制度の中の、最小統治単位である「県主(アガタヌシ)」は、神武時代から存在するが、AGUDA-NASIで「集団の長」を示し、職制の一つである「造(ミヤツコ)」はヘブライ語で「代表者」の意である。

実際、ヘブライ語と日本の平仮名・片仮名など、非常に類似性が高いという点は以前も振れたが、一応ここで一部確認しておこう。ネット上に公開されていた比較図を拝借してきた。

(ヘブライ文字と日本文字)

当然、あちこちの本やネット上にあるものから、あれこれとわたしが勝手に引っ張ってきて、まとめただけのものだ。

その筋の専門家ではないので、ほんとうのところはわからない。しかも、どれもこれも意味不明の歴史というパズルの中の、いくつかのピースを取り上げて、全体像はこうじゃないか、ああじゃないかと憶測をしているにすぎない。

ただ事実として言えるのは、英国で作られた世界の古地図には、日本のことをHeaven(天国)という名称で記載されていたということだ。



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