台湾の人々へ~もう一息だ

政治・経済, 歴史・戦史

これは362回目。

今日は2020年7月27日。

株式市場に関わっている人なら、おそらくとても驚きを禁じえない一日であるはずだ。今日、台湾市場の株価指数、加権指数が史上高値を更新したのだ。

1990年2月以来だ。30年ぶりということになる。

これでなにか気が付かないだろうか。1990年というのは、日本のバブル崩壊の年だ。当時世界的に株はたしかに下がった。

以来30年。アメリカも、欧州も、中国も、世界中の国の株価指数はその後、現在に至るまで、何度暴落があっても、その都度史上最高値を更新してきた。

この30年、たった二つの市場だけが、延々とこの史上高値を更新できずに呻吟してきたのだ。それは、日本と台湾だったのだ。その台湾が、今日ついに史上高値を更新した。当の日本は、あの暴落からまだやっと半分しか戻していないのだ。

これには世界の半導体を受託生産している台湾セミコンダクターが高値更新してきたことも大きな貢献をしている。

先週末、インテルがアメリカ市場で暴落し、AMDが暴騰した。同じ半導体のライバル企業で明暗を分けた。7ナノの新製品をインテルはあくまで内製にこだわった。その開発・販売が遅れているというのだ。

AMDはすでに7ナノを販売している。AMDからそれを受託生産しているのは、台湾セミコンダクターだったのだ。

インテルの内部では、自分たちも内製にこだわらず、生産を外部に委託したほうがいいのではないかという議論が高まっているらしい。

すると、台湾セミコンダクター(世界最大の半導体受託生産企業)が、また恩恵に浴するかもしれない、そんな観測が強いのだろう。

しかし、それだけではない。もう一つある。

なぜ、日本と台湾の2市場だけが、延々と史上高値をとることができなかったのか。それは、輸出依存にこだわり、海外との自由貿易圏共同体に入っていなかったから。

どこの国も自分の小さな内需だけでは成長持続できないから、海外との自由貿易圏を構築することをしてきた。中国のような膨大な、内需世界が存在するところはいざしらず(インドもそうだろう)、ふつうは国内需要は一定水準まで経済が発展すると、もう成長を内需だけに依存することはできない。

かといって、輸出ばかりに依存していると、貿易摩擦の種になる。それより、国境を越えて、もっと広い共同市場をつくろうじゃないか、という機運が90年代から急速に高まったのだ。

アメリカではNAFTAがそうだ。欧州ではEUが。東南アジアではASEANだ。

しかし、日本はその選択をしなかった。日本の株式市場が30年たっても史上高値を取れない理由には、いろんなことが指摘されている。が、その一つにこれがある。

台湾はどうだろうか。ちょっと事情が違う。台湾は自由貿易圏共同体に参加したかったのだ。しかし、それはかなわなかった。何処の国も中共の「一つの中国」というセオリーを強要され、台湾と国交断絶したからだ。

台湾はずっと、国家ですらなかったのだ。

ひどい話ではないか。

それが、今、ひょっとすると中共の崩壊で、台湾が国際社会に復帰するかもしれないと、市場は思い始めたのだろう。それが、今日の加権指数の史上高値更新には、秘められているかもしれない。

米中間では総領事館閉鎖の応酬となっている。

次は大使館だ。大使館引き上げということになった場合、事実上の国交断絶といっていい。

一方でアメリカでは、トランプ大統領、ないしはペンス副大統領の台湾訪問(1960年以来一度もない。中共の顔色をうかがっていたためだ)があるのではないかと取りざたされている。

ニュージーランドはじめ、世界中の政府・議会では台湾の国家承認を巡る議論が始まっている。

犯罪国家同然の中共を、その巨大な市場欲しさに容認し続けるのか。

一方で見事に中共ウイルスを克服することに成功し、自由と民主主義の中華圏の成功例である台湾を村八分にしていて、それで国際世論の良心が咎めないのか。

では、両方認めればいいではないか。

それは中共が許さないのである。だとすればわれわれは、中国国民、ウイグル人、香港人、チベット人、モンゴル人の悲惨な弾圧・虐殺は見て見ぬふりをして、中共政府の機嫌を損なわないようにし、ひたすら中国という膨大な市場で経済活動をするのか。

それとも、人間としての矜持を守り、正義の鉄槌を中共に下すか。

二者択一しかない。

中共にとって一番許せないのは、台湾という自由と民主主義の繁栄の成功例が存在することにほかならない。

それを許していると、香港が、そしてウイグルが、チベットが台湾の成功例を模倣し、中共政府に公然と反旗を翻すようになることは間違いないからだ。

一刻も早く、台湾と、今その台湾と同じ道を模索している香港の民主化運動を、完全に壊滅させておかなければならない、と中共は焦燥感に駆られている。

アメリカはよくそのことを知っている。

次の一手は、アメリカがどのタイミングで台湾を正式に国家承認するかということであり、その前振りとしては、大統領か副大統領が台湾を訪問するということにほかならない。

中共は、絶対に認めないだろう。

しかし、世界は台湾の国際社会への復帰を間違いなく歓迎する。遅すぎたくらいだ。

それでもまだ日本は、中共に媚び続けるつもりなのだろうか。アメリカが台湾の国家承認という強硬手段に訴えたとき、日本はいつものようにそこでようやく追随して台湾承認に動くのだろうか。

見下げ果てた国家だと言っていい。台湾にどれだけ不義理をしたかわからない日本であるのに、台湾は世界でも突出した親日国だ。その台湾を真っ先に国家承認するのは、日本以外にどこがある。

かつて、日本が敗戦した折(1945年8月15日)、中華民国・国民党政府の蒋介石は中国軍を台湾に進駐させ、現地日本軍の降伏受理をした。

ここが問題である。台湾は当時、あくまで日本領である。ただ敗戦となったので、蒋介石軍が入ってきて、降伏手続きをし、施政権の譲渡(代行といってもよい)を行ったわけだ。

ちょうど米軍が日本列島に進駐し、マッカーサーのGHQが軍政を敷いたのと同じで、蒋介石の国民党軍が「日本の台湾地方」に進駐し、軍政を敷いたと思えば良い。あくまで、日本領土であり、居住する台湾人はすべて「日本国籍・日本国民」であった。

領有権はあくまで日本にあり、一貫して法的には(国際法的にはということだ)台湾は日本国領土であった。繰り返す、居住するすべての台湾人は「日本国民」のままだったのである。

日本人や日本軍は、蒋介石軍に降伏した後、ほとんどが日本内地に復員した。

そして2年も経たない1947年2月28日。それまでの日本統治とは比べ物にならないほど劣悪非道な国民党政府の統治に、「日本国民」であった台湾人たちは激高し、台湾全土で反乱が起こった。

228事件である。

叛徒はラジオ局を占領し、全島に「軍艦マーチ」を流し、「日本語」でシュプレヒコールを飛ばした。すべての台湾人の共通語が、日本語だったからにほかならない。

「台湾人よ、蜂起せよ。日本刀を持っているものは、日本刀を持ってこい。村田式三八銃を持っているものは、村田式三八銃を持ってこい!」

全台湾人共通の合言葉として「君が代」を歌いながら行進し、歌えない者(大陸から蒋介石軍とともにやってきた外省人)を排除しつつ全島の実権を一時掌握した。

恐れをなした国民党は、大陸から援軍を派遣し、これを徹底的に弾圧し、1万8000人から2万8000人が殺された。

多くは、つい2年前まで50年間に及ぶ日本統治下にあって、高等教育を受けた台湾人エリートたちである。しかもこの時点で、国際法的にはれっきとした「日本国民」である。

日本政府は、米国の軍政下にあったから、遠慮したのだろうと思うが、それは間違いだった。はっきり、日本は主張すべきだったのである。

国際法的にまだ「日本国民」である台湾人を、中国国民党政権は虐殺している、と非難の声を挙げるべきであったのだ。敗戦したから、米軍に対してと同じように施政権は譲ったが、台湾は依然として「日本」であるということを、強烈に主張すべきだったのである。日本はしかし、例によって沈黙した。

この国には、義など無いのである。自国民が虐殺されていて、黙っている国なのである。先日も書いたように、日本にはあの時点で、もはや侍など一人もいなくなっていたのだ。

実際に、国際法的に、正式に日本が台湾の領有権を放棄したのは(台湾人が、法的に日本国民でなくなったのは)、5年も後の1952年のサンフランシスコ講和条約においてである。それまでは、台湾はあくまでも日本であり、台湾人はすべて日本国民であったのだ。

日本はこのように、台湾に対して、それこそ歴史上、取り返しのつかない「負い目」が有る。「日本国民」を見殺しにしたのだから。日本が贖罪の念を禁じえないとすれば、それは朝鮮半島に対してでも、満洲・中国に対してでもない。台湾に対してであるはずだ。

かつて、1977年の夏。まだわたしが大学一年生の頃。

台南の安平古堡の公園の檳榔樹の木陰で、将棋を指していた台湾人の古老たち。

228事件を生き延びた彼らから、「なぜ、日本はおれたちを見捨てたんだ?」と投げかけられた言葉を、わたしはいつも思い出す。

1947年の228事件で見捨て、1972年の国交断絶(中共との国交樹立)で見捨て、二度も台湾を見捨てたのが、この日本という国である。「日本精神(リップンチェンシン)」の名がすたる。

日本人よ、台湾人の悲壮感に満ちた73年にわたる孤立無援と、その苦渋を思え。

もうたくさんだ。今度はけじめをつけろ。

外省人だの、本省人だのと言っている暇すらもはや無い。台湾に生きとし生けるもののすべてが、乾坤一擲のチャンスをその手にしている。

台湾よ、もう一息だ。かつて、先生と仰ぎ、兄と慕った日本という国を、きみたちはもうとっくに追い越している。株価の先行性は、すでに今日の最高値更新で、9ヶ月先の台湾の姿を予見している。兄貴分づらしている日本は、不甲斐なくもきみたちの道程のまだ半分しかたどり着けていない。

きみたちはこのまま、突っ走れ。

ゴールは、もう目前に迫っている。きみたちの瞳には、この最後の直線コースの先に「独立」というチェッカーフラッグが見えるか。